JA1ACB こだわり無線塾



何故 球なのか



 小生は大学の教授ではないので天上天下唯我独尊でも真っ向上段から決め付ける方でも、又門外漢や素人を莫迦呼ばわりして鼻先でせせら笑う方でもないが、スミスチャート(正しくはスミス水橋チャート、水橋博士の方が3ヶ月程早い)の実軸が対数表示になっている等と言う説明には怒声を張り上げたくなる。「0(ぜろ)の対数は0ですか?∞の対数はどの種の∞ですか?」と。で、読者諸賢に一つ質問、「三極管と同じ様な電圧電流特性を持った半導体素子が有ったら教えて下さい」。三極管のアンプは負荷抵抗高くすればする程歪が少なくなる事は特性曲線の上からも実測値からも良く知られているが、この様な特質を多極管や半導体素子に要求するのは無理である。リニアパワーアンプ、それも終段に三極管は余りにも能率が悪く、電源も極めて内部抵抗の低いものが必要になり実用的ではないので、せめてドライヴァー位はと抵抗した結果がメタル管の6N7、MT管(Miniatureミニアチュアが此の頃は全部ミニチュア)の6J6を始めとする数多くの物、そうして(最近は"そして"と綴るが)極め付けはライトハウス管の2C43、これはアノードが裸なので少々使い難いが、プレート/アノード耐力が大きくμも手頃であり、グリッドの接続が厄介な事を除けば最適の球である。特に20MHzから上或いは120Vp程度のドライヴ用としてはなかなかの優れ(秀れ)物である。写真は6N7,6J6,6AN4と2C43である。

6J6(MT)、6AN4(MT)、2C43(ライトハウス)、
6N7(メタル)


 次に、入力抵抗が極めて高い事、入力容量が小さい事(入力容量は同調回路により消せる)、動作状態による電極間容量の変化が非常に少ない事、これは言い換えるとニュートロがとり易く高ゲインのGK型アンプが作り易い事等が挙げられる。終段にこの特性を当てはめれば、ドライヴァー段から電力を取り出す必要は無く、それこそ三極管の負荷抵抗をこれでもかと言う位大きくして出力電圧だけ大きくしてやれば良く、その特徴が最大限に引き出せる。既に「CQ」誌でも示した様にこのドライヴァー段はGK型でもGG型でも歪は殆ど差異は無くニュートロが無い分GG型に軍配が上がりそうだが、能率の点から終段に多極管を使う事を前提とすると、NFBは避けて通る訳には行かず、2段アンプの時は位相関係から一寸した工夫が必要になる。脱線したが、この動作状態で電極間容量の変化が少ない事は安定な高利得のアンプ、言い換えると段数の少ないアンプ、総電力効率の良いアンプを作るうえで非常に大切な事である。


リ ニ ア パ ワ ー ア ン プ

 
 パワーを取り出すリニアアンプとして基本的に考えられるのはGK型(Grounded− Kathode「独逸語、球のベース接続図ではKを使う」−Cathode)とGG型(Grounded Grid)の二つで、パワーアンプとしてはGA型(Grounded Anode−Cathode Follower)は滅多に使われる事は無い。電力利得から考えると、GK型では100倍は当たり前でしっかり作れば1000倍を越す事も可能で理論的にはグリッド側に入れた同調回路の消費電力のみである。但し実際にはカソードに流れ込んでいる電子流(プレート電流とスクリーン電流)を制御しているのでエネルギー(独逸語読み?)が必要であるが。それに比較してGG型では10倍が普通で上手く作っても20倍が上限と考えて差し支えない。では、何故GK型が敬遠されるかと言うと、普通はグリッド側もプレート側も同調回路が必要で、その上ニュートロが無ければまともに動作しないので、回路、構造共に複雑になるからで、それに比較してGG型はカソード側の同調回路は極めて簡単な物で充分で(A級アンプの場合は不要)、又原則としてニュートロは不要なので、所謂「下駄」、米英語で言うと「After-burner」としては最適な物と考えて良いだろう。後で詳しく説明する事になるが、このGG型は1段NFBにはなかなか上手い回路で、それに引き換えGK型は1段NFBには不向き、と言うかドライヴァー段の影響が大きく、基本的には多段NFB向きである。

 
 帰還(饋還、フィードバック、FB、アンプの時は全てNFB、負帰還)無しの色々の測定例は既に「CQ」誌に充分な解説と測定データを示したが、三極管、多極管を問わず、パワーを取り出す場合の3次歪(IMD、相互変調歪)は、特別な低歪球、例えば4CX350FJとか4CX600Jと言った物を除くと、せいぜい−30dB位で、悪くすると−25dBを切る事もあり、飛沫(しぶき)を減少させようとすると、如何してもNFBを掛けて−40dB位の所を確保したい。従ってNFBを掛ける事を大前提にすると、100Wから1kW位の出力では2段の間にNFBを掛ける形式が標準と考えて良い。これ以上のンkWになると、やはり3段になり自作向きではなくなってくる。一方「下駄」としてのGG型では5dB位のNFBが大体の目安で、3次歪を−40dBにするのは意外に厄介である。と言う事で、今回の稿はNFBを主眼として解説し測定したデータを示すつもりである。実を言うと1段と2段の測定データ集を「CQ」誌に渡してあるが、当分記事に成りそうも無いし、その後測定したエンヴェロープ帰還(大誤算の巻)やALCの諸問題、リミティングアンプ、等などのデータは手元に置いた儘になっており、又、次々と新しい事を思いつく度に何回か作っては壊し、壊しては作り結局ああこのアイディアは上手く行かないか・・・没になった物数知れず、上手く行ってデータが採れれば、この稿も何回か改定、改革(?)と追加をする事になると思う。


4CX-350F
4CX250、350用ソケット


 リニアアンプのドライヴ電力をどの位にするか何時も気に掛かっているが、手許のエクサイター(?)の出力が100mWなので(Collinsの671U-4やHF 8010/8014)これらを勝手に基準にしている。又「下駄」を履かす場合は100Wの押しを基準として考えているが、これが意外や意外、3次歪が−30dB程度で、これで押した日には鼻つまみならぬ耳ふさぎになってしまうので、−50dB程度の3次歪のエクサイターとするには改造して100mWあるいはそれ以下のパワーの所から取り出してやる必要が出てくる。余り言いたくないが、市販(直販が直売になったが市売とは言わない)のトランヴァーでは規定出力で3次歪が−30dBは致し方ないとしても、出力を下げて行っても一向に歪が減少しない等と言うトボケタ機械があるのは困った現象である。某氏の御意見に依れば,各段のレヴェル配分がテンデ出鱈目だそうで、それこそミクサーの後から直(ちょく)に持って来る位にしないと駄目とか。

コリンズ 617U-4群
レシーバー/エキサイターとコントロール
コリンズ HF8010
コリンズHF8000シリーズのシンセをRPGで駆動
(851S-1の様にした)外付けVFOとして使用


 ALCの問題は別に項目を設けるのでここではノタマウつもりは無いが、基本的にALCを例えば1kW出力から働き出す様にセットすれば、ALCが掛かると言う事は1kWの出力が出ている事になる。この辺の所でひどい誤解をしている方々が多いのには困ったものである。勿論ALCも一種のNFBであるが,このNFBと言うと又とんでもない誤解をしている方が居られて、絶句した事がある。その面白い話は其の内関係の在る所で少々・・・いや寧ろ針小棒大に書きたいと思っているが、要約すると、信号レヴェルが大きくなるとNFBも強く掛かると信じておられる様である。


 リニアアンプの中で一番厄介な事は何と言っても電源で、特に球の場合はヒーター/フィラメント、バイアス、スクリーングリッドそしてプレートの各電源、更に各段色々の電圧等と来た日には、其れこそ腕組みした儘石の地蔵さんになりそうである。良く球とソケットにヴァリコンを手に入れただけでリニアアンプが出来上がった心算の方々の多い事、大体の所電源で挫折する場合が殆どで、AB級やB級(最近は殆ど使われ無いが)アンプの場合チョークインプットにすると言う最も基本的な構成を省略乃至は無視しようとする為,碌な球のアンプが出来ない事になる。昔から言い伝えられた格言「全体の費用の半分を電源に掛けろ」、良く考えなくても高周波出力と言うエネルギーを作リ出す為の基礎或いはオオモトになる所だから当たり前だが。又球の場合ヒーター/フィラメントと言う厄介な物が付いている上に、高価な球(新品で買えばの話)を出来るだけ長持ちさせようとすると,ラッシュカレント制限、スタンバイ時電圧低減そうして送信時電圧安定化を考えなくてはならない。更にバイアスは如何なる状態、条件でも絶対に掛かった儘になって居なければならないし、スクリーン電圧を掛けた儘プレート電源が止まる事が無い様にする等々、球の破損防止の為電気関係のみならず冷却関係、機械構造関係に就いても考え無くてはならない事が数多くある。
 

 
 電気的な問題は以上の他に重要な事はパラ止で、コリンズで昔社内設計用データとして発行されていたハンドブックがあったが、高周波トランスの設計データと同様、入手出来る訳でもなく、其れかと言って、この様な低イムピーダンスの測定が可能なネットワーク/イムピーダンスアナライザーは存在しないので,ケースバイケースでカットアンドトライ(野球業界ではアンドをエンドと発音しますが・・・)で作らなければならない。その他、電気部品の問題、冷却方法の問題、配置構造の問題(この構造設計のガイドブックがコリンズから35年以上も前に発行されたが、価格が月給の3倍もして・・・)等に就いても出来る限り書きたいと思っている。キョウビ自作をしよう等と言う人は稀有になったが、自作機を作る事は一種の創作つまりアート制作(映画の時は製作でヴィディオの時は制作)だと考えて、出て行く電波/信号が作品表現とすれば、小生等は将にアーティザン、日本語で言えば「職人」、其れも物理的、電気的な或いはもっと基本の科学的規則/規範/法則の上に成り立って創作をしているので、芸術の方で言うアートとは少々違うかも知れないが。何れにしても創作と言うものは大変楽しいもので、特に出来上がって、上手く働いた時の満足感や恍惚感(?)は筆舌に尽くし難い。(バーカ!オメーはネクラのオナニストか!クタバレ!と言う罵声が聞こえて来そうである−hi!−)