JA1ACB こだわり無線塾



1段 NFB


 前の方で少々触れたが、この1段NFBはGG型アンプ向きであるが、一応基本的に説明をしておこう。
 
 図1はGK型の基本回路で、NFBのアームとニュートロのアームをどちらとして考えても差し支えない。この回路で実用的なフィードバック量は大体5乃至6dB位であるが、入力側をリンク結合とする場合には何の問題も発生しない。ところが、前段(ドライヴァー段)と直結しようとすると、小生の好きな三極管ではプレート内部抵抗が低いのでNFBアームが恰もダンプされた様になりNFB量が非常に少なくなってしまう。従って前段を直結する場合には必ず多極管、メタル管では6AG7、MT管では6CL6, 6GK6, 5763, 7558或いは12BY7と言ったところを選ぶことになる。実際8150(この球意外に歪が多い)でドライヴァーに6J6を使用した物を作ったが、これがさっぱり駄目で、回路設計上からは6dBのNFBが掛かる筈が、歪改善がたったの1dBかその程度、つまり誤差範囲しか改善されず、その原因が判るまでに1週間以上掛かった。結局6CL6に変更して、やっと6dBの値を得る事が出来た。従ってGK型の1段NFBは余り意味が無いと言える。

 
  GG型の「下駄」で高名な物は何と言ってもコリンズの30S−1でしかもNFBが掛かっていて、理解用としては最適な機械であろう。図2はGG型の基本回路で勿論ニュートロは考えていない。
 
 GG型の「下駄」で高名な物は何と言ってもコリンズの30S−1でしかもNFBが掛かっていて、理解用としては最適な機械であろう。図2はGG型の基本回路で勿論ニュートロは考えていない。この基本回路を説明する前にこの図2を見てオーディオ屋さんならアリャこいつはアルトラリニア(Ultraの英語読み、独逸語読みはウルトラ)ではないか!となる。アルトラリニアの場合は勿論図3の様に使うのは多極管でドライヴはコントロールグリッドからになるが、NFBの掛け方がそっくりである。もしこの図3の方法を其の儘使うとなるとGK型となり、スクリーングリッドが浮いているので高周波用としては勿論ニュートロをとる必要がある。一般に使用されている多極管はμsgが発表になっているものが多いが、μpつまりプレート(一々アノードとプレートを併記するのは面倒なので、回路動作機能の時以外はプレートとする)とスクリーングリッドの間の増幅率(μ)が発表になっている球等聞いた事がない。従ってNFB量を計算で出そうとするとμpを測定するしか方法が無いが、一般的に言ってプレート電圧に比較してスクリーン電圧の低い球の方がμpが大きいと考えてよい。只オーディオの場合はプレート電圧とスクリーン電圧が等しいが高周波用の大出力の球ではその様な使い方は出来ない。


 1段NFBの決定的に良い点は何と言ってもフィードバックによる発振が無い事で、多段の物はその点出力側のケーブルの長さに依り発振するとか、フィードバックループが長くなって位相余裕が無くなって発振し易いとか、出力側にパイマッチやパイエルマッチ(エルエルマッチ)を使うと同調点に対して位相関係が非対称になり発振し易くなったり、色々と厄介な事が起きる。しかし1段では歪の改善はせいぜい5から6dB位の物で、目的とする3次歪を−40dB、あわよくば−45dBもとろうとすると如何しても15dB場合に依っては20dBものNFBが必要で、その場合には2段にせざるを得ない。となると1段で−40dBもの3次歪を得ようとすると、如何しても球を非常に余裕のある使い方をするしか手は無い。更にNFBを掛ける為にゲインに余裕を持たせなければならず、多極管を「ベタコンGG」で無く正規の使い方をする必要が出て来る。この様にすればドライヴ電力もかなり減りNFBに依る増加分を補償する事が出来る。只スクリーングリッド電源とバイアス電源が別に必要になり仕掛けが大きくなるが、考え方に依っては前段のドライヴ電力が大きいと言う事は、その高周波電力を作り出す為の電源が大きくなり、何れの方が得策か冷静且つ詳細に検討する必要がある。

 以上1段の説明は終わるが、小生としては余り興味の対象にならないので、実測データは手許に幾つか残っているが割愛したい。只、アルトラリニアにして面白いと思うのは4CX10000Dとか4CX15000A更には4CX35000C(在日米軍の入札で新品が何本か出た事がある)と言った化け物を正式(?)に組み上げて、其れを低歪の50W位のブースター(4CX35000Cの時はとても足らないが)で押してやると言う方式で、誰か真面目に取り掛かる気にならないかなと思っている。



2 段 N F B

 これこそこの稿の大命題で、場合に依っては再度色々な球のデータを採り直してもよいかと思っている位であるが、既に実験測定した中で4CX350FJは確実に3次歪−45dBを10dB程度のNFBで得られる球で、この時 出力は約200W(プレート電圧2000Vで)、通常の用途としては充分過ぎる位である。何だか最初から結論ありで申し訳ないが、実の話この強制空冷の騒音が嫌だと言う人々が多く、今更813や4-250Aでも無いし、其れかと言って水冷の4W300B辺りの小さい球では熱交換器、ポンプ、水質維持装置等を小型化するのに厄介な問題が多く、しかも球の値段が同等の物の4倍以上もするとなれば、ンkW乃至ン十kWの機械なら周辺装置に高額の出費をすると言う話は判るが(何だったら冷却用のプールから作るか!)、超好事家の対象にしか成り得ない。写真は4W300Bのセラミック版、4CX350FJと8560A(伝導冷却)である。

4W300B(セラミック版)、4CX350FJ、8560A(伝導冷却)

 前置きが妙な具合になったが、GK+GK型の基本回路を図4に又GG+GK型の基本回路を図5に示しておくが、GG+GK型はNFBの位相の関係から如何してもトランスが必要である。


 実はこのフィードバックループ内のトランスはコリンズの548U−1(GK+GK型で球は4662+4CX600J×2)に使ってあり、よく寄生発振をしないものだなと感心しながら、実際GK+GK型で実験した所何の問題も無しに上手く動作(大日本帝国陸軍が作った言葉「作動」には拒否反応があるし、戦前の辞書には載っていない)したので、それならばGG+GK型は出来上がったも同然となった訳である。実の話このGG+GK型を思いついたのは極々最近の事で、同じ球の構成で同じフィードバック量でGK+GK型とどの程度違いが出るかこれから検討、設計、製作、実験、調整、完成の上測定に掛けるので、データの出るのは先の事となる。ドライヴァー段のニュートロが無いので構成上自作向きかもしれない。


 標準となるGK+GK型としては色々な球の組み合わせで測定をして見たが10dBのフィードバック量では歪の改善は約10dBで理屈通りと考えてよい。只これには絶対的条件があり、其れはこのNFBの掛かったアンプ系を押すエクサイターに歪が増加しないで10dB以上出力が上げられるだけの余力が無いと、虻蜂取らずになる。従ってもし20dBのフィードバックを掛けるとなると、エクサイターは実に20dBもの余力が必要になる。大体この20dBのNFB量は限界で、某局向けに製作した85W出力のGK+GK型2段NFBの物は出力側のケーブルを3メートル(仏蘭西語読み)にもすると発振してしまう。実測値で3次歪は14MHzで−45dB、3.8MHzで−48dBにもなるが、一寸同調をずらすと発振するので、各バンド共プリセット同調になっている上ロードも純50Ωしか使えない様にしてある。この様な低歪のアンプは球が疲れてくると歪が増加するのが普通で、保守にはかなり気を配る必要があるし、球を交換した時ニュートロを取り直さなければならない。参考迄、この機械の概略配線図を図6に掲げておくが、段間の同調回路は小型のコア入りの物で余りQを上げられず並列に高周波チョークを入れて増々負荷抵抗が下がることは避け無ければならず、結局多電源方式のロフティンホワイトアンプ(誘導ハムに注意)にせざるを得なかった。写真は懐かしの6146A、8150(1段NFBで紹介した)と本例の7984である。

6146A,7984、8150

 
  Ep/Ipと∂Ep/∂Ipの差異が判る人は多いが、球の三定数から導き出したGK型、GG型そしてGA型回路の基本的性質に就いて正しく理解し、実際の回路をどの様に組み上げるかが出来る人が如何に少ないか、カスコード回路(正確にはキャスコードか)を見る度に思い起す。これに就いては以前「59」誌に書いた様に初段のGK型の負荷抵抗を次段のGG型で極端に下げてしまいニュートロを省略しようと言う方式で、受信機のトップの様にμVオーダーの信号レヴェルならいざ知らず、dV(デシヴォルト・・・デスィヴォルト)からVオーダーの電圧を取り扱うには歪が多くなり使用に耐えない。と言う事でドライヴァー用GK型のアンプのニュートロを省略しよう等と考えるのは天に向かって唾する様なものであるし、送信機の様に高いレヴェルの電圧を扱う所には絶対にカスコード回路を使ってやろう等と考えない事、そうして折角同調回路と言う直流電圧降下が殆ど無い負荷抵抗(負荷インピーダンス)それも低歪にする為の数kΩから数十kΩが容易に得られる回路を大いに活用して貰いたい。如何してもニュートロが嫌で嫌でニュートロをとる位ならば死んだ方がましと言う方々には大体同性能のGG型をお勧めするが、場合によってはヒーター回路をチョークコイルで浮かす必要が出て来る事がある。但しヒーター回路の配線を入力トランスの中に一緒に巻き込んでしまうのは、コアの磁化特性の非直線性の為信号が電源周波数で変調される可能性があるので止めた方が良い。


 2段アンプの入力回路はGK型とGG型で基本的には異なるが、エクサイターが100mW程度の出力があるとすれば、両型共ブロードバンドトランス(ブロードバンドとワイドバンドと如何違うのか?)で50Ωラインとマッチングをとってドライヴァー入力とすれば良い。ここでフィードバックを掛けるとするとフィードバック量分だけトランスの出力電圧を大きくして置かなければならない。先ほどの実例のアンプでは6AN4のグリッド側で約0.8Vpのドライヴで85W出力になり、20dBのフィードバックを掛けると約8Vpのドライヴ電圧が必要になる。50Ωラインで100mWは電圧に直すと約3Vpになるので、トランスの巻線比は1:3×2(ニュートロをとるとして)で約9Vp×2の2次側電圧となリ、50Ω対1800Ωになる。ところがこのイムピーダンス比では広帯域にするのは非常に困難で、幸いにも100mW側エクサイターにかなりの余裕があったので巻線比を1:2×2にして50Ω:800Ωとした。一方この6AN4をGG型にする場合その入力抵抗は負荷抵抗に依存する、つまり〔Rp+RL〕/〔1+μ〕となるので、正確にマッチングをとるのは意外に困難で大体の所つまり電圧を基準に考えて1:2から1:3の巻線比のトランスを作り様子を見てやると言う方法が早手回しである。何れにしても、周波数によりプレート負荷抵抗が変化するので完璧な入力側のマッチングをとる事は不可能である。



 エクサイターが100mWもの出力が無いとなると如何してもGK型でしかも入力回路をプッシュプル型同調回路にしてニュートロをとり易い様にしてやる必要がある。・・・・・・・・ドライヴァー段のNFBが掛かった状態でのドライヴ電圧が10Vp程度であればエクサイターの出力は2〜3mWもあれば、Qの高いハイLの同調回路にすれば容易に実現できる。只今回の85W機の様にマルティバンド(マルティの後は必ず単数形、従ってMultimedia「マルチメディア」は変でMultimediumの筈、Mass mediaも同じ)の場合はコイルを大きく出来ない上にシールドの関係から、入力トランスにせざるを得なかったので100mWのプリアンプを入れる事となった。勿論エクサイターが100mWから300mW出力程度で3次歪が−50dB以上とれればこの余計なプリアンプは不要である。この程度の出力の場合に昔は結構球が使われたが、BJTやFETでも或いはハイブリッドモデュール(昔モトローラで30dBゲイン、100mW出力でIMDが−60dB位のHF用の物を出していた)でも良いが、余り球一点張りでも「老害」を撒き散らす事になり申し訳ないので図7に30年以上前からコリンズが使ってきた回路を掲げておく。この回路はBJTであるが同程度のFETとしては日立が出していた2SK408がなかなかの物であったが現在は製造中止と聞いている。

 話が100mWより前の段の所で道草を食ってしまったが、この辺りで一寸息抜きに4CX250B/4CX350AのNFB付のDUTの写真を掲げておこう。

6J6、4CX250B NFB付

 NFB量はヴァリコンで調整と言うか調節が出来る様にしてあるが、この調節は先ずNFB無しでのアンプが規定出力になった時の入力電圧を測定しておいて、次にNFBを掛けてNFB量が10dBならば入力電圧が3.2倍に、15dBならば5.6倍に、20dBでは10倍になる様にセットする事になる。この写真の例では10dBから15dBも掛ければ充分で、このNFB量は歪量、入力電圧の余裕、負荷の状態(安定度)等から決定するのが普通である。この内歪量は同じ種類の球でも一本一本かなりの差があり、例えばIMDを−40dBにしようとした時余裕をみて15dB位のNFBを掛けたいが、このNFB量では同調点、負荷の性質或いはアンプ内部の位相余裕(球の印加直流電圧と配線の長さ)に依っては発振する事があるので事情が許せば12dB(約4倍)位迄にして置いたほうがよい。コリンズがスクリーングリッド電圧を高くしているのは球の中での位相の遅れを電子の走行速度を上げて少なくしている大きな理由の一つで、スクリーングリッド電圧がプレート電圧よりも高いと言った機械があるが、よくまあトランジトロン発振をしないものだなあと感心する。ニュートロ回路もフィードバック回路も貫通型のマイカコンデンサー(キャパシターの方がよいか?)が入手困難になりつつあり自作派には段々と嫌な世界になって来た。写真にこの手の低温度係数の貫通コンを示しておくが、アルミシャシーの場合直接半田付けは出来ない(軍用ではアルミの上に金メッキや半田メッキをかけたものがある)ので螺子止め方式になる。

貫通コン(セラミック、マイカ)

 話は大いに脱線するが、オーディオの世界も低歪を追求しているが、HFの世界とは違い飽く迄も自分自身が聞いた安らぎの音色(ネイロ)でNFBを掛けて低歪にする方法は拒否される傾向にあり、これは多分に位相余裕と利得余裕の限界から来るトランジェント音(ジェとゼ、シェとセは相変わらず混乱がひどい。特にGeneralがゼネラルは当惑する)が耳障りになる様で、むしろ良い音色の部品や素子の探求に躍起になっている。要は自分自身の耳で聞くか聞かないかの大きな違いで、ステレンの電波は飛沫さえ少なければ音色の悪いのは莫迦にされるだけで他人に迷惑を掛ける事は無いが、オーディオでは自分自身に全てが降懸かってくるので、其れこそ全智全霊(全知全能?)を傾け必死こいて、俺はこれがいいのだ、悪く言えば独りよがりの世界を作る傾向がある。三極管のアンプで傍熱管は駄目で直熱管で無いと駄目、その理由が直熱管はドライヴ電圧でフィラメントが微妙に振動して良い音が出るとの事、其れでは混変調が発生するでしょうしマイクロフォニック雑音が出ますがと言いかけたがどうせ議論が噛合いそうも無いので黙ってしまった事がある。ある有名なユニットメーカー(このカタカナ語のメーカーのアクセント、モニターやフィルター等と同じく原語と違うが何故?)がNFBを充分掛けた極超低歪のオーディオのプリアンプを出したが、オーディオの大家の方々から全然音が良くないと言われてそれ以来オーディオの世界とは縁切りにしたそうである。そう言えば某社のコンデンサーマイク、イムピーダンス変換に6AU6を使っているが、これが何処のメーカーの物が良いとか悪いとか、やれ通測用が良いとか悪いとか、10本に1本しか使えないとか一本一本実聴で選んでいると言う大変な聞くも涙語るも涙の物語だったので、もう一寸で7543や8425或いは高信頼管の6136や6AU6WA/6AU6WB/6AU6WC等は試されましたか、と言う所だったが、頭から疑惑の眼差しで見られそうなので止めた。いずれにしてもHFの世界とは余りにもかけ離れて居るし、フレミングの左手の法則を持ち出したら気違い呼ばわりされたので、それ以来オーディオの世界には近付かない様にしている。

 話は元に戻って、写真の機械の回路図を図8に示しておくが、NFB無しで歪量の測定をしたグラフが図9で、これに15dBのNFBを掛けた時の歪量を測定したグラフが図10で250W程度の出力の機械としては特級品と迄は行かないが一級品位の旗印は立てても良いのではないかと思っている。更にこのGK+GK型のフィードバックループにトランスを入れた物のグラフが図11で、直接の物と余り大きな差は認められない。そこでこれをGG+GK型に変更した物の回路図が図12で、ドライヴァー段の6J6の歪量は3次が−55dB、5次で−65dB位でGKに比べて少々悪くなっているが理由は不明である。これにNFBを掛けて無い時の歪量のグラフが図13でGK+GK型に比較して何故悪くなっているか理由は不明である。これ等の解析に就いては将来の問題としておく事にするが、更に不可解な事態が発生したのがGK+GK型のβの儘GG+GK型に変更した所約10dB(実測では8.5dB)しか帰還が掛からず何か狐に抓まれた(?)様な感じである。この測定グラフを図14にそしてβを変更して15dBのNFBを掛けた時の歪量のグラフを図15に示して置く。このGG+GK型はNFBのループがドライヴァーのグリッドつまり入力抵抗が無限大の所に戻っているのでトランスに終端抵抗が必要で、これが無いと位相が90°廻ってしまうが、入れると今度はNFBループの分割比が変わってしまい、其れも周波数で分割比が変化するので回路設計上極めて厄介な事になる。と実際にやって見てコリンズの考えた方式、つまりGK+GK型が如何に色々な点に配慮されているか、それも1950年代の初めには完成していたのであるから「恐れ入り矢の鬼子母神」(ワープロの変換の漢字ではこうなっている)としか言い様が無い。只GG+GK型ではアンプの入力電力つまりドライヴ電力がGK+GK型に比べて3〜4分の1で済むと言う利点があり、マッチングの不具合を除けば可也自作向きの楽な方式と言えるかもしれない。GG+GK型は要検討事項が重積している。

 ところでAB級のアンプから前段或いは前々段にフィードバックを掛けると第二高調波や第三高調波がかなりのレヴェルで小電圧を扱っている所に戻って来る為奇妙な歪が発生し具合が悪い。そこでコリンズはこのフィードバックループにローパスフィルターを入れて高調波による歪の発生を防いでいる。このローパスフィルターの減衰特性と位相特性を測定したのが図16であるが、如何も釈然としないと言った所が小生の結論である。確かにローパスフィルターになってはいるが30MHzでの位相の廻りは可也の量になり只でさえ大型で、フィードバックループの配線が長い208U−3Aや208U−10Aでのこの回転量は位相余裕が無くなり動作の不安定を引き起こしかねない。勿論終段をプッシュプルにすれば第二高調波は可也減少させられるが、第三高調波は如何ともならず更にフィードバック回路が複雑になり、下手をするとドライヴァー段までプッシュプルにする必要が出てくる。実際HFのアンプでプッシュプルの物にNFBを掛けてあるのは見た事もないし、最近は送信機の出力がアンバランスつまり同軸ケーブルになってしまいプッシュプルのアンプへの結合はBJTやFETなら簡単だが球では可也厄介になるので完全と言っても良い位忘れ去られてしまった。昔プッシュプルアンプ用の平衡型のヴァキュアム(ヴァキューム)ヴァリコンがあったが、実物の写真だけでも拝みたいと思っている。終段がプッシュプルの場合一つだけ好都合な事はGG+GK型で帰還ループを襷掛けにすれば位相反転用のトランスで悶え苦しむ事は無い。其の内暇でも有れば7270のNFB付きプッシュプルアンプでも作って見ようかと思っている。

 この高調波で思い出したが、終段のプレート出力側の同調回路のQが何故10から15位になっているのと言う質問があったが、これに正確に返事をしようとすると其れこそ70年も80年も昔の事を蒸し返す様になり小生の本意とする所ではないが、C級アンプで流通角を60°で設計した時第二高調波の量を1%(この値少々うろ覚え、電力比か?) にする為に設定され、更に同調回路内の無効分電流量から起こる実損に依る発熱との兼ねあわせから来た値で、ベッタラポンのパックリチーと迄は行かないが可変周波数のアンプでは動作点(流通角)が一定に保持出来ないと言う点から見て可也適当な値と考えて良い。いずれにしても流通角が180°(B級)から360°(A級)もあるアンプではこのQは遥かに低い値で良いし、又其の様にすれば同調回路内の無効分電流も減少するのでコイルは小型で充分で、又LC比も大きく出来高価なヴァリコンを小容量の物に出来目出度し目出度しとなる。極端な話A級アンプでは流通角から考えて出力側の同調回路は不要で、只マッチングが取れさえすれば良い事になる。マッチングと言えば、最近何かと言うと直ぐにトロイダルコアのトランスが持ち出されるがこのコアを利用した高周波の摺動変圧器(日本では東芝のスライダック、米国ではGeneral Radioのヴァリアック「現在はSuperior Electric に売却」が有名)を何故作らないのか不思議で致し方ない。特に粉末冶金で銀グラファイト系のブラシ(綴りからははブラシュ)つまり低電圧大電流用の物を作るのは朝飯前の筈だが。この様なRFスライダックと言える物があれば可也広帯域のマッチングも容易になるのではと考えている。

 何だか話が2段NFBからかけ離れた方に大脱線してしまったが、この様な回路部品や回路構成の問題は大電力用では意外と旧態依然としており、先日も某君とプレート側のRFCの事で大議論をしたばかりである。このRFCとフィラメントチョーク等に就いては別に部品に関しての総括で述べたいと思っているし、勿論パラ止めに就いてもある程度の指針が示せればと考えている。昔々はこのプレート側のチョークと言えば1mHや2.5mHと相場がきまっていたのだがこれらのチョークは殆どがHF帯の中に直列共振点を持っており、大電力になると必ずと言って良い位焼損した。ならばと言う事でチョークに少々高周波電流が幾許か流れても目をつぶる(つむる?)事にしたのがコリンズが一般化した単層捲きの低インダクタンスのチョークである。これらのチョークのインダクタンスは大体40〜80μH程度の物が多く、一例としてKWS−1を例にとればインダクタンスは45μHでプレート高周波電圧が約1200Vrmsとすると最低周波数3.5MHzでは1.2Arms位の電流が流れる事になり、高周波実効抵抗がどの程度あるか不明だがI2Rとして4〜5Wは考えておく必要がある。又208U−10では50μHでプレート高周波電圧を約3700Vrmsとすると2MHzでは実に6Arms近い高周波電流が流れる事になるので、ボビンや捲線の材料に可也の留意が必要になって来る。しかし手許にある548L−4A(4CX350 4パラ1kW連続出力)のプレートチョークは簡単にエナメル線(フォルマル線?)を密着捲にしただけの物で65μHあるが、何とも早KWS−1の物と比較(正しくは「ヒコウ」と読むが、今は廃音)すると情けないなんて物ではない。

 以上が2段NFBの説明で、現在某局向けに4CN15A パラで極低騒音空冷の物を計画中であるが、ホームページを始めてしまったので果たして何時完成するやら・・・神のみぞ知るである。一方本稿で示した6J6+4CX250/4CX350での2段NFB物のみでは消化不良だと言われる向には「親ページ」の方に希望、意見及び「コキオロシ」等をお寄せ頂きたい。807や6146等を担ぎ出すも良し、或いは8005(CQ誌に出した)をAB級にしてNFBを掛けた物も面白いかと考えているが、色々言い出すと際限が無いし他にもやるべき事が山積しているので一先ず(はやり言葉では「トリアエズ」)この辺で次に移る。

4CN15A、4CX300Y