JA1ACB こだわり無線塾



アルトラリニア


 最初の予定ではこのアルトラリニアに就いて単独の項を設けるつもりは無かったのであるが、某先輩から直接お手紙を戴き4CX35000Cの手前引っ込みがつかなくなり、まさかこの恐竜的化け物を使う訳にも行かず、2段NFBの実例の4CX250/4CX350のソケットはスクリーングリッドのパスコンが付いた物しか無く、苦し紛れに手許にあった4CX300Yを使って測定して見る事にした。


4CX300Aもあったが、帰還するスクリーングリッドの耐電圧が少しでも高い方が良いと思って「Y」を使用する事にした。この球アイマックの規格表にはプレート電圧2000V、スクリーングリッド電圧300Vの動作条件はないが250W出力程度ならば充分であり、先ず通常のGK型で歪を測定したものが図25で、勿論ドライヴァー段は6J6をGK型に戻してある。歪量は250Bと五十歩百歩であるが、昔JA1MP故長谷川佐幸八重洲無線社長が「6JS6Cと6KD6は同程度の球なのに何で歪量に天地の開きがあるんだ」と不思議がって居られたが、実の所300Yの歪量が250Bと同程度なので安心した所である。350Aは250Bと大した変化は無いが350Aは250Bに比較してグリッドドライヴ電圧が1/2程度なので前段の負担が遥かに少なくなるし、歪量は350FJになると可也減少して来る。


この辺の測定データは「CQ」誌にたっぷり渡してあるが、如何しても、無理やりでも、是が非でも、或いは強引でも見たい向きの方は直接「CQ」出版へ乗り込まれるのが早いと思う。要はこの300Yのデータを上手くスケーラップ(スケールアップ)可能な様にするかである。又々余談になるが、この4CX300Yと言う球驚異的にパーヴィアンスが高く一寸油断をすると直ぐにプレート電流が350mAを越してしまいオーヴァーヒートになるので注意して欲しい。実際HP 6521Aでなく通常の整流電源を使うと平気で500mAを越すので簡単に球を壊す事になる。



 図26は今回の実験に供したスクリーングリッド帰還の回路で、此処で発生するする最大の問題はスクリーングリッドの分割のコンデンサーが出力側同調回路の一部分を形成している事と(当たり前だが)、スクリーングリッドとコントロールグリッド間の容量がNFBのループになってしまう事の二つであるが、後者はフィードバックニュートロを取れば済む事だが、前者のこのNFB分割の2個のコンデンサーの耐圧と電流容量には可也の注意を払う必要がある。

図26:スクリーン・グリッド帰還
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 コリンズの30S−1では確か5pF 5kVのセラミックコンが入っているが、この程度が大体適当ではないだろうか。次にスクリーングリッド電圧の瞬間最大値はAMプレート変調の場合通常スクリーングリッドにも変調を掛けるが其の時のスクリーングリッド直流電圧の2倍と考えて良い、と言う事はこの4CX300Yではプレート変調の最大規格から600Vpが最高値と考えられるから、高周波分は300Vpとなる。この様に考えて来るとプレート出力高周波電圧とこの300Vpの比が帰還回路のβ其の物自身になり、依って詰まる所μpとβから自動的に帰還量が決まってしまう。之が球の規格上からの制約であるが、此処で昔の話を思い出したので一つ・・・アイマックから4X150Aが売り出されて間もない頃之をベタコンGGにして使うとアッと言う間にコントロールグリッドが焼損してしまい4X150Aは弱いと言う噂が拡がった事がある。アイマックで試験した所コントロールグリッドに最大ドライヴ時何とアムペア近い直流電流が流れる事が判り、お願いだからベタコンGGだけは止めてくれーと成った。この辺りの話はJA1ANG exJ2NG米田治雄氏が「無線と実験」誌に書いておられたので参照して欲しい。一般に球は直流消費電力の規格を守る必要があるが印加電圧の方は半導体と違って可也融通が利き、昔某局は807に実に2000Vもの電圧を掛けて使っていたが、同じ807でもプレートを碍子で浮かしてある構造の物のみで、新型のマイカ直止めの物は駄目とか可也勇ましい話であった。


 脱線したがプレート特性曲線の上からプレート高周波電圧は約1600Vpでありβは約1/5になりμpは不明だが1段NFBの所でも述べたが、大体の推量で帰還量は6dB位と踏んで見る事にした。此処まで来た所で球の選定を誤った事に気が付いたが、小生も昔の様な馬力をもう持ち合わせていない事を痛感させられた。と言うのはこの4CX300Yの2000V/300Vのドライヴ電圧が55Vp程あり之にNFBを6dB掛けると110Vpに成ってしまいドライヴ段の歪がそろそろ無視出来なくなってくるので、4CX350A/Fにしておけば良かったと思ったが後の祭り、何とか騙し騙し採ったデータが図27で、コントロールグリッドドライヴ高周波電圧が大体100Vp程度になったのでフィードバック量が約5dBとしてまあ全体としては歪が5dB位の改善は得られている様である。


 此処で図を見ても判る様に5次歪から高い方は極端と言えるほど減少しているが、3次歪はさっぱり改善が見られず之は恐らくスクリーングリッドとコントロールグリッドのプレート電流に対する制御特性の違いによるのではないかと考えている。この程度の改善をする為に死ぬ程嫌いなニュートロを二重に取る等論外であり始めからGK型の1段NFBにした方が数段賢明であろう。只問題は先述した様にドライヴ段の内部抵抗が高い必要があり、低歪化の点から見て結局の所2段NFBに落ち着く事になる。或いは正確なドライヴコムパレーターを入れたGG型、つまりコリンズの30S−1の様にするのが結局の所賢明かとおもわれる。


 実際に4CX35000をGK型1段NFBで使うか如何かは別にして、この化け物のドライヴ電圧は約400Vpで之に6dBのフィードバックを掛けると800Vpになり、多極管ではこの程度をドライヴ出来るプレート電圧2000V級の球が幾等でもあるが歪の点からは裸で使える物は4CX350FJしか無く、又多極管のドライヴァー段にNFBを掛けるとなると、並列帰還の為に内部イムピーダンスが低くなり三極管と同じ事になってしまう。一方でスクリーングリッド帰還を三極管でドライヴするとなると3000V級の物が必要になり、更に1段のNFBに二重にニュートロが必要では「お天道様が西から出ても嫌だ」と言う結論になるであろう。


 此処で直列帰還の実験をする事になれば迷路に入り込む、或いは支離末葉(枝理末葉?)を云々する事にも為り兼ねないので、先に進む事にする。只高周波ではオーディオと違いアンプの内部抵抗は問題にしないので直列帰還を採用するのは何等問題は無い。HP 3588A或いはHP 4396Aと言ったスペアナ(勿論日本製でも結構、テクトロや超高価なローデウントシュヴァルツでも)を持っておられる方挑戦されては? と此処までフィードバック、帰還そうしてNFBを其の時の気分次第で適当に使って来たが別に他意は無い。此の先受信機或いはエクサイターの所では更に「再生」、「超再生」、「発振」、「PFB」、等々もチャランポランで使用したいと考えている。この辺りで回路の問題を離れて少し部品の話をしようと思う。勿論其の後で乗算器つまりミクサー/検波器/コンヴァーター/復調器の疑問点に就いて第一報をしたいと考えている。只小生の悪い癖で途中で何か思いつくと直ぐに脇道に入って行くので、飽く迄も第一報としておきたい。写真は某氏ご提供の4CX35000Cと4CX1000Aの比較である。

写真説明:
4CX35000C(左)と4CX1000A(中央)。
写真右は東芝8F76R(TV送信用?)