JA1ACB こだわり無線塾



アンテナ同調・整合装置
2009/5月 NEW!

 車両用やヴェランダあるいは単線等のアンテナは同調と整合が不可欠であり、またローディング型のダイポールでも周波数カバー範囲が狭いので同調を取る必要があり、言い換えると先ず同調を取ってリアクタンス分を除去し、次に50Ωのケーブル又は送信機に接続する為に整合つまりイムピーダンス変換を行う必要がある。特に車両用の場合はかなりの速度で走行する上に周囲の状況が刻々変化するので、固定されたアンテナ用の所謂プリセット型同調整合装置ではとてもではないが追従出来ない、つまり所謂オートマティックアンテナカプラーが必要となる。この高速自動追従制御は機械的変化量と電気的変化量がお互いに干渉し合うので、専門家は直ぐに「そんな事出来っこない!」とまるで頭から莫迦にして取り合ってくれないが、ペイトリオットミサイル(実際の発音はミッシルに近いが)の様な高速でも方向舵を制御出来るのだから、案ずるより産むが安しで無手勝流とは言わないが某局用に試作した物が高速道路や防音壁でも或いは大型車が近付いても問題なく追従動作する事が判ったので、順を追って説明する事にしよう。勿論これは某局局長の機械的な構造構成の優秀さがあっての話で、何時でもどの様な場合でも上手く行くとは限らない、つまりこの手の負帰還系自動追尾装置の位相・利得余裕と追従速度との関連から簡単な問題でない事を念頭において読んで戴きたい。

 アンテナの給電端から見た最も基本的なイムピーダンスの数式:

Z=R±jX

を見れば当然±jXをゼロにしてやらなければならない、言い換えれば先ず同調を取る、つまりリアクタンス分をゼロにする必要があり、アンテナ素子が使用周波数に対して短すぎる場合はローディングコイルを入れて1/4波長に等価になるようにする。勿論使用周波数が高い場合は1/4波長の整数倍にする事もあるし、短縮コンデンサーを入れる事もあるが、何れにしても同調を取ってリアクタンス分をゼロにすれば話は終結する訳である。 別の見方をすると、同調が取れていないと言う事は電圧の位相と電流の位相が合ってないと言う事であるから何等かの方法で電圧の位相と電流の位相を比較してその差を出力として取り出し追従制御に利用し電圧の位相と電流の位相が一致する様にローディングコイルを調節してやれば目出度し目出度しとなる。電圧の検出はコンデンサー分割が普通であるが、2MHzから30MHzまでカヴァーしようとすると少量のインダクタンスや抵抗を入れて周波数依存性の補正をする必要が生ずる場合が多い。勿論高周波電圧計のディヴァイダーの様な同軸構造にすれば周波数依存性は殆ど無くなるが、何時でもその様な構造に出来るとは限らないし、周囲に流れている電流の位相や方向或いは相対的な部品の位置関係が大問題で、単に同軸型のセラミックコンや貫通型のボタンマイカコンを使えば済むものではないし、貫通型のセラミックコンはバイパス用(いわゆるHi-K型)のものが殆どで損失角が大きく温度依存性も大きいのでこの様なディヴァイダーには使えない。いずれにしても使用周波数範囲が1オクターヴ程度なら可也雑な作り方をしても問題は無いが、3.5MHzから28MHzのような3オクターヴやジェネカバの2MHzから30MHzの5オクターヴにもなると周波数補正回路を入れる必要がでてくる。

次に電流の検出であるが通常カレントトランス(変流器)を使用するが、コイルあるいはトランスと言う極めて厄介で不可解な代物を如何料理するか、小生も未だにこの場合にはこの様な構造、定数にすると言う方程式が見出せていない。結局のところ騙し騙しと言うか、宥め宥め何とか使える様に色々弄くり倒す手法を使って完璧ではないがまあまあ見られる物を捻り出している。基本的にトランスは一次側の電流の変化値が最大の時に二次側の電圧の出力値が最大になる、言い直すと位相が丁度90度廻る事になる。これは飽く迄も一次と二次の間に容量結合が無いと言う大前提の上、二次捲線自身の分布容量もゼロ或いは使用周波数でコイルとのリアクタンス比が無視出来る程でなければならないと言う条件になっており、実際このカレントトランスを作る時の一次と二次間のスタティックシールドには細心の注意が必要であるし、トランスである為一次線以外の周囲を流れる電流の磁力線が入り込まないように外側も入念なシールドが必要で、又二次捲線の分布容量を少なくするのに大変な障害になる誘電率が非常に大きいフェライト或いはパウダーコアの上に捲く必要があり、更にこの外側(通常は銅管かメッキ黄銅管)と同軸ケーブルの外被の接続も工夫が必要である。勿論二次側はセンタータップ付で±90度を検出出来るようにするが、基本的回路は図91である。ところでこのセンタータップ付の二次コイルはバイファイラーにするか対称的間隔捲きにするか可也議論のあるところだが、一応今回の某局向け自動機用としてはバイファイラーで済ませた。コリンズの490Tシリーズのアンテナカップラーでは吃驚する位の間隔捲きで対称構造になっている。最終的にはラインの電圧を分割した分をこの二次コイルのセンタータップに接続して電圧と電流の位相差に比例した直流電圧を取り出す訳であるが、この位相検出回路言い換えるとリアクタンス分検出回路は図92になる。バランス調整用のヴォリュームはダイオードの特性補正と二次コイルのアンバランスの補正を兼ねている。

 次に出力検出であるが、これは電圧と電流の位相関係を完全に無視して強引に加え合わせた量で良いので話は簡単であるが、出来る事なら実効電力を測定出来る様にしたほうが半導体化した装置には具合が良い。又別な見方をすればイムピーダンスを丁度純50Ωにすれば良いので、既に同調が正確に取れていると言う大前提に立てば単にラインの電圧と電流の比を測れば良い事になる。つまり回路上は電圧ディヴァイダーとカレントトランスの構成で良いのであるが、カレントトランスでは90度位相が回ってしまうので負荷を掛けてラインの電流の位相とカレントトランスの出力電圧の位相を可能な限り同じにしなければならない。この電流検出回路の周波数依存性を無くするのは非常に厄介で、基本的には捲数を多くして負荷抵抗を小さくすれば良いが、負荷抵抗の消費電力が大きくなり抵抗器の選択と放熱と言う厄介な問題が出て来る上に折角搾り出した送信電力を測定回路に使ったのでは申し訳ないので、カヴァーするバンドが狭ければ捲数を少なく抵抗も小型の物で済ませられる。昔の電流検出回路では抵抗をラインに直接入れてその両端の電圧を読む方法が採られたが無誘導の低抵抗は手に入り難いし、AB社のソリッド抵抗を何十本も並列にしたものは経年変化が酷く電流測定には向かないし、ラインに直接抵抗を入れるのは何と無く折角作り出した高周波電力を損するようで我々無銭家には酷いストレスになる。基本回路は図93で電圧のディヴァイダーとカレントトランス両者の整流出力の差がラインイムピーダンスが丁度50Ωになった時にゼロになるように設定すればよい。実際の回路は図94で、電圧ディヴァイダーの方の分割比を調整出来る様にしてある。

 以上のように純抵抗分とリアクタンス分を分離して測定した方が理解し易いし、可変部つまりヴァリLやヴァリコンをコントロールする場合も機構的に楽である。バード社のような分布定数回路で複合イムピーダンスと言うか反射電力と進行電力をいきなり測定すると純抵抗分とリアクタンス分を分離してヴァリLとヴァリコンを各々別にコントロールするのは困難である。一方7MHzや3.5NHzの同調はヴァリLを加減して行うとすれば当然給電端は非常に低い純抵抗値となりこれをステップアップし50ΩにするためLマッチを入れる事となる。つまりローディングコイルを加減して同調をとり±jXをゼロにしてからLマッチでRを50Ω似合わせる事になる。もちろん1/4波長より長いアンテナや給電端(同調を取った後も含めて)が50Ωより高い場合はLマッチを逆向きにしたりπマッチや可変トランス(高周波用スライダック?)でイムピーダンス変換をする事になる。基本的な回路と言うか構成は図95でありローディングコイルはLマッチのコイル分も兼用する事になる。

電気的な回路のゲインと機械的装置のゲインや時間的遅れは両者が絡み合って非常に解析が厄介であり、専門家と言うか電気屋は鼻から「そんな事不可能!」と取り合ってくれないし、一方一寸判った振りする電気屋は「アー簡単簡単!」と鼻先であしらって、実際何時まで経っても物が完成しない有態である。写真CCは以上の検出方式を使った高SWR検出器でSWRが設定値を超えたとき送信機を自動的にオフにするための物である。また最近7MHzの広帯域化でアンテナの同調を取り直す必要が出て来たが、この検出器の±jX用のものだけでもあると大変便利である、ただダイポールの場合はホイップアンテナのようにローディングコイルを同調点に向って闇雲に廻せば済む訳ではなくトラッキングが必要なので、勢いパルスモーターを使わざるを得ない。つまりダイポールの各エレメントにローディングコイルを入れパルスモーターのような回転角と言うか回転量を正確に同一量だけ廻す事にしなければならない。

 最後に某局用に作って実際に稼動させた(十分に最高の気分で楽しんだそうです!)±jX検出とR検出の全回路を図96に示しておく。キョウビアナログ回路にアナログ制御等と言うと頭から旧式だと莫迦にされそうであるが、検出部分がアナログなのにわざわざA/D変換をしてディジタル制御にして部品数を増やす必要は無い。サーボアンプにはOPアンプを使うので電源が両極性になるが加減するモーターの正転、逆転をするためには致し方無いし、最近は小型の高能率スウィッチング電源がいくらでも入手できるのでそれ程悩む事は無い。両回路は一つの金属箱に入れて厳重な貫通コンデンサーを各リードに入れてあるが、これは車両無線の場合は非常に重要で、もし廻り込みがあると何を制御しているのか判らなくなるので注意してほしい。写真は実際のユニットで長い間「ブラック・ボックス」と称していたものである。機械構造のゲイン、つまりモーター1回転当りのインダクタンスやキャパシタンスの変化によってOPアンプのゲインを調節する必要がある、さもないと所謂「ハンティング」つまり機械的発振を起こしたり、ゲインが足りなければSWR=1になるよう追従をしてくれなくなる。

 最後になるがこのような追従型サーボ機構は使用周波数を大きく変化させると圏外に外れてしまうので、周波数を変える場合は残念ながら少しずつやる必要があるし、それでなければコリンズの自動アンテナカップラーの様に周波数(1KHzの変化でも)を変える度にチューンスタートが入り最初から「ヨーイドン」となり、「気短」には向かない。飽く迄も周囲の状況が刻々変化する走行時の車両用と考えて戴きたい。固定用途としては先述のように高SWR検出もベランダ・アンテナの自動同調も可能であるが、ベランダ・アンテナで幾つものバンドをカバーするにはローディングコイルのみの調節では高周波側バンドでは同調が出来無くなり色々な工夫が必要になるが、バンド切り替え時にアンテナにリレーを使ってコイルやコンデンサーを入れる、マルチバンド・アンテナの場合はバンドの広帯域化でヴァリLやヴァリコンを入れたり切ったりして同調を取る必要が出てくるので、むしろプリセット型の市販のアンテナ整合装置を使った方が遥かに楽である。