JA1ACB こだわり無線塾



発 信 器 の 雑 音 T

訂 2004/09/23

改訂 2005/05/03
図や回路図は順次掲載していきますので、お楽しみに!
 
 題目は発振器の雑音としたが勿論全ての信号、つまり単純なキャリアばかりでなく音声のSSBや、非線形回路を通した後の雑音と信号の関係やインジェクションの持っているSSB位相雑音や振幅雑音に依って信号や雑音が変調されると如何なるか等々、手持ちのHP 3588Aで出来る限りのデータを出せる様に工夫したいと考えている。勿論ヒョンな事でHP 3047A, 3048A或いはE5500系が入手出来れば万々歳で当たるを幸い薙ぎ倒す事が出来るが、其の様な極楽蜻蛉の様な或いは記録的万馬券が100枚当たった様な発想が的中する筈が無いので糞真面目に隠々滅々とデータを採る事にする。ところでキャリアノイズで何時も不思議に思っている事は0.01Hz、0.1Hz、1Hzと言ったキャリアに極めて近い周波数のノイズレヴェルが如何して問題になるのかである。通常信号は情報を伝達する為必ずサイドバンドを持っており其の為信号が1Hzおきに並んでいると言う様な事は有り得ないし1Vもの信号の直ぐ横ニ1μV(-120dB)の信号があって1Vの信号のキャリアノイズを被ると言う様な状況は滅多に発生しない。いずれにしてもSSBの場合はスプラッター、CWの場合はクリックによるサイドバンドの拡がりのほうが遥かに大きいと考えてよい。従って我々ステレンの場合SSBでもCWでも100Hzから3kHz迄の中に雪崩れ込んでくるノイズを検討すれば充分で10Hz以下のノイズを云々するのは野暮である。

 キャリア近傍の雑音を議論する場合直ぐに位相雑音を云々するが、位相が揺らげば当然振幅もSin(ωt±δ)の式から考えて揺らぐ訳であるがキャリアに非常に近い周波数の雑音を測定しようとするとAM検波ではDCブロッキングコンデンサーの容量が極めて大きくなり実用的でないのでキャリアをバランスアウト(バランサウト?)出来る位相検波を使用する事になる。更に熱雑音に近いレヴェルの雑音測定はまさか絶対温度の0度近い所迄下げる訳には行かないので、通常はキャリアレヴェルを+15〜20dBm位にしてdBc/Hzとして測定に掛ける(本当は懸けるか?)のでSN比を15〜20dB稼げる事に成る。只今回の様なフィルター方式では余り入力を大きくするとフィルターが壊れてしまうので大体0dBm程度にしておいた方が良い。とフィルターを使用する方法を考え付く迄十年近い年月が掛かっているが、一言で言うとこの様な単にフィルターを入れただけの方法で−160dBm/Hz近い雑音を測定出来るとは夢にも考えて居なかった。又ステレンの場合は大体100Hzから3kHz位までのパスバンドの中に入って来る雑音を問題にすれば充分なので気は楽と思っていたのが大変な間違いで、結論から先に言う事になるが局発やインジェクションの持つ雑音がパスバンドから遥か遠い周波数の強力電波に依って大変な悪さをする所をお目に掛けたいと考えている。今回使用した250kHzのフィルターの特性を図43に示して置くがキャリアを250.013kHzとすると大体70dB位の減衰が得られるし、パスバンドの減衰がほぼ0dBに抑える事が出来たので(特性が悪化しない程度にマッチングトランスを少々工夫した)HP 3588Aのノイズレヴェルが裸の状態で−138〜139dBm/Hzで之に雑音指数2.9dBでゲインが20dBのアンプを1台?いでバックグラウンドの測定をしたのが図44で全く変化しないので、ノイズレヴェルは−158〜159dBm/Hzになった事になる。このバックグラウンドノイズが20dBのアンプを接続しても変化しないと言う事は、更に増幅しても良い事になるが、実際同じアンプをもう一台付けると−162〜163dBm/Hz位になる。しかし特別な場合つまり前段の方でロスが発生する時以外は余り大きな意義はないと考えて良いが、ノイズレヴェルの測定の場合測定しようとしているノイズレヴェルがバックグラウンドノイズレヴェルよりも10dBは大きく無いと誤差がひどくなり結局何を測定しているのか判らなくなって来るので臨機応変に入れたり外したりする心算である。


 HP 3335Aで250.013kHzのキャリアを0dBm入れてやったのが図45である。1.5kHzオフセットのノイズレヴェルは−140dBm/Hz程度で、まあシンセサイザーとしては最新型のン百万円もする物と比較すれば上々としなければいけない。次にシンセのキャリアを249.960kHzに近付けたのが図46で有意差は見られない。この構成では250kHz以外の入力周波数では使えないので250kHzのフィルターの前に周波数変換器を入れて通常の受信機と全く同様の構成にしてやる事にした。回路は図47でミクサーとしてHP 10534Aを使用して、そのロス分はフィルターのマッチングトランスの捲線比を加減してほぼ0dBになる様にした。先ず最初にHP 3335Aを局発にしてWenzelの10MHzの低雑音OCXOを信号として雑音を測定したのが図48で、各説明にも有る様に信号から1.5kHz, 10kHz, 100kHzでも1MHz離れてもS9+60dBを越す信号が入ると受信雑音が増加すると言う厄介な現象が発生する。原因は勿論局発のキャリア雑音によるもので、遥か離れた周波数の強力な信号によって、譬え其の信号がどの様に純度が良くても、受信パスバンドの中に出て来る雑音を減らそうとすれば局発の雑音を減らすしか方法が無い。其処で局発と信号を逆にしてやるとどうなるかが図49である。
  HP 3335Aの雑音は生で250kHzで測定した物と変化は無い。この部分に就いては再度SGが清く正しく美しくなった所で再測定するので辛抱戴きたい。現在は箱根で測定をしているが、兎に角色々な雑音電磁波、電磁界が強力で測定データは眉唾とまでいかなくても、フーン位の軽い気持ちで見て戴きたい。

清く正しく美しい信号が局発のノイズで変調されて汚染されると言うならば之を逆手にとって図50の様にバランストミクサーのキャソード電流中のノイズ(ミクサー自身と局発のノイズが出て来る。信号はキャンセルされて出て来ない)を増幅して位相を逆向きにしてコントロールグリッドに戻してやると言う仕掛けは如何だろうか。更にこの考えを拡張してミクサーは変調器そのもの自身であるから、図51の様にキャリア自身のノイズを戻してAM変調すると言う昔懐かしいAM放送用送信機で使用された整流帰還と同じ手は如何だとなる。HP 10534Aではコントロールグリッドが無いので前者の方法は不可能であるが、後者は完全に独立した回路として構成出来るのでHP 3335Aの出力に入れてやれば超一級のSGが出来上がる。HP 3335Aを局発として使用したノイズの測定結果は既に示したが、このNFBノイズリデューサーについて充分検討する事に方針を変更したのでご容赦願いたい。と言うのは外来雑音の関係と、OPアンプで極低雑音の物が意外に入手困難で、更に小生自身の意欲も増大せず、、、、、と言うよりも昔の馬力は遠い思い出のみになってしまったので、実験の速度が極端に遅くなる事等、大変申し訳なく思っている。ミクサーにノイズリデューサーを入れた場合の同様の測定結果を図52に示す。同様の測定を250kHz直接で行った結果が図53で、残念ながらオペアンプの雑音が高く何をやっているのかさっぱり意味がピーマン状態であるが、それでもバックグラウンドの雑音レヴェル以外は可也減少しているのでNFBの効果は或る程度認められる。 図51の中の整流出力のレヴェルを充分に大きくしないと-140から-160dBmもの雑音を検出するのは不可能で、一方整流出力を大きくするとローパスフィルターが大袈裟になり発振の危険性が増大する(この場合はリスクマネージメントでしょうか、エマージェンシーマネージメントでしょうか)。又+入力の時定数を1kHzにして250kHzフィルターのパスバンドの中でNFBの効果が変化する様子を示したのが図54である。此処で注意しなければならない事はこの+側のアームは正帰還其の物ずばりで時定数回路と相俟って発振の可能性がありオペアンプのGB積との関係を充分注意する必要がある。一方図55の様な回路つまりACアンプならば−入力のみでオペアンプのGB積が非常に大きい場合以外発振を心配する事は無い。以上の2回路は単独のユニットとしてどの様な発振器にも接続可能であるが、DDSの場合は基本的な設計方針の中にAM変調可能な端子を設ける事にすれば非常に単純明快になる。このDDSのCN比改善にはディザリング(Dythering)つまり出力のDAコンヴァーターの隣接ビット間を往復して段差を均してしまう方法で可也以前に発表されているが、3dBしか改善されないと言われており、雑音の世界では先述した様に測定誤差範囲である。このディザリングをJiCSTで見た時、なかなか上手い手だと感心したが、それから2年ほど後ある日本の大学の先生が全く同じ事をさも自分が考えたように発表しているのには吃驚した。しかもグラフは最初に発表された物を其の儘コピーした物でさすがの小生も唖然呆然愕然としたが、この様な寒気や鳥肌の立つ様なフィーリング(!)も剽窃ノーベル賞事件以来であった。又最近では、高温超伝導での論文捏造事件が有名である。

発振器の雑音と言うと昔のHRO、スーパープロ等のLC発振器そうしてコリンズのPTO、しかも70E系のダストコアを使用した物と70K系のフェライトコアを使用した物、そうしてPLLの前身であるSMOと言った色々な技法の雑音、更に欲を言うならば再生検波の再生から発振に移って行く時の雑音の変化、何故超再生は雑音が多いか、等々やりたい事だらけである。またHP 105Bには10MHzを5MHzに分周するのにTTLのフリップフロップを使用しているが、このサイン波を矩形波に変換するスレッショルド(スレスショルド?)電圧の揺らぎが雑音乃至はCN比に悪影響を与える事は無いのか、もし影響が無いとすればマルティヴァイブレーターを使って逓倍や分周をしても良いと言う事になりそうである。又フィードバック型分周回路、ロックイン(ロッキン)発振型分周回路、等々周波発生回路上の諸問題は発振器の雑音U以降で詳しく説明する心算である。此処まで雑音とノイズをチャンポンに使ってきたが別に他意は無く、学術論文ではないので軽い気持ちで読み流して頂いて結構である。粗大塵になった3335Aの後釜にHP 8657Aを入手したがカタログどうりCN比の悪さ加減は絶句する位ひどいものである。先ず図56を見て欲しい。これがHP8657Aの生の雑音とハムの出力であるが、100Hzのハムレヴェルは変調度にして1%にもなり何の為に変調度が1%から設定出来る様になっているのか不思議と言わざるを得ない。又例の様に250kHzの雑音を測定した結果が図57であるが、大体仕様程度で、1.5kHzオフセットで−110〜115dBm/Hzとなり、結局残念ながら部屋の片隅に鎮座させる事になった。

ところで、色々な文献や解説を読むと、SSB位相雑音の方がSSB振幅雑音より格段に大きいとあるが、実際に我々が耳で受信している時、聞こえてくる雑音は位相雑音なのか、振幅雑音なのか、又位相の変動は耳で聞く事が出来るのか、誰か明確な答えを出して呉れないかと考えている。 又AM受信とSSB受信の時の雑音の性質の差は一体全体何に起因するのか、プロダクト検波器(特に平衡検波器)と位相検波器と何処が違うのか(名前が違うと言う声あり・・・・)、兎に角皆々様冷静になって考えて戴きたい。 最近SSB振幅雑音測定アダプターを手に入れたので、目下オーディオ帯用のローノイズアンプを捜索中であるので、其の内に測定データを出せると思う。