JA1ACB こだわり無線塾



ALCとAGC

2004/08/29
 

 
 ALCとAGCは別々に項目を設け様かと思ったが信号レヴェルが同じ様なものだしどちらもSSBのエンヴェロープ又はその一部を整流してコントロール電圧を出しているのでまとめて一つの解説とする事にした。
勿論送りと受けで微妙に違う所は其の都度付け加えるつもりでいる。SSBのエンヴェロープと一口で誰しもが簡単に片付けているが、実の所この整流波形を詳細に観察し解析してある記事は見た事も無いし、ましてやDelayed AGCとかALCでもグリッド電流検出型とかバイアスの掛かったグリッド電圧或いはプレート電圧検出型(勿論両方共RF電圧)の様にエンヴェロープの頭の部分を切り取って整流した波形がどの様なものか、更にこれ等の摩訶不思議な波形をローパスフィルター乃至は時定数回路を通した後一体全体如何の様な波形になっているのか、ローパスフィルターにチャージパンプ(ポンプ)を追加したりアクティヴリップルフィルターを入れたりした場合に就いては、はたまた其れ等の波形でいきなりゲインコントロールしても宜しいのだろうか、と疑問だらけである。昔風ならばヴァリミュー管のコントロールグリッドにいきなり戻すとかコリンズで言えばいきなりPINダイオードに戻すと言った簡単な方法で良いのだろうか、再変調の問題は完全に解決済みだろうか、納得の行く様に充分説明して欲しいとなる。1960年代SSBに現を抜かしていた頃、スピーチアンプの中に6137/6SK7WAを3結プッシュプルにしてリニアアンプからグリッド検出型でコントロール電圧を戻してリミティングアンプを作って使った事があるが、オーディオとSSBのエンヴェロープの関係から妙なシャックリ音がひどく直ぐに止めてしまった。この様にゲインコントロールは尋常一様な技法では解決出来る問題ではなく、ましてや受信のAGCの様にAM時代其の儘をSSBに持ち込んだりでは何の進歩も改革も無く何とも早情けないなんて物ではない。儲けにならない所は無視すると言う了見が「ミエミエ」である。ところで今思いついた事であるが、通常ALCやAGCであるレヴェルを越した電圧其の物を整流してコントロール電圧としているが、このリップルが諸悪の根源であることは良く知られているところである。其処で、発想をがらりと変えてスレッショルドを越した所でスレッショルドレヴェル以下の電圧、つまりピーククリップされた電圧波形を整流してコントロール電圧とした方がリップルが遥かに少なくて具合がよいことになる。其の上を更に欲を言うならば、最近の予測型電子体温計の様に最終到達点を予測する、つまり音声入力のレヴェルの上昇具合を見ながら最終到達電圧を予測してALCやAGCのコントロール電圧を作り出してやる手法はどんな物であろうかと一人でニタリとしている。勿論これ等はディジタル(政府制定のローマ字で引くとヂギタル、何故ならDigitalisはヂギタリス)処理で無いと不可能であるが・・・。


 先ず図58は御馴染みの2トーンの波形で、これを或るレヴェルでスライスして整流した波形が図59である。つまりこの図59の波形はALCやDelayed AGCの時定数回路を通す前の波形と考えて良い。此処の所までは瞬時にして出力があるので何の問題も発生しないが幾ら何でもこの波形でいきなりアンプのゲインをコントロールした暁にはどの様な大騒乱(ダイソウランでしようかオオソウランでしょうか、先日テレヴィで大収穫をオオシュウカクと読んでいた)が発生するかは想像に難くない。其処で勿論ローパスフィルター乃至は時定数回路を入れてリップルを取る事に成るが、之が尋常一様、一筋縄で片付く物では無く、最近のトランヴァーの様にDSP処理のSSBで0Hzつまり直流から出しているとなるとALC時定数回路も無限大の時定数が必要になり結局ALCが掛かる迄無限大の時間が掛かったりして何をしているのか皆目見当がつかなくなる。ALCのアタック時定数とリリース又はディケイ時定数の問題は突付きだすと野壺(!)に嵌る可能性極めて大であるが、之を避けて通る訳には行かず結局小生として考えられる最高の逃げ道は少々リップルが残っていても再変調歪が発生しないでゲインコントロールする方法を考え出す事に帰着する有態になった。之とても再変調が発生しない様にと単にプッシュプルにしただけでは其の儘平衡変調器になるだけで上手い解決策に就いて簡単に問屋は卸して呉れそうも無い。この再変調つまり非直線性による歪を逃げるには可変抵抗によってゲインコントロールするしか他に方法が無く、ラダー抵抗を使ってD/A変換でやるとしても、其処で発生する量子化雑音を低くするには最低でも14ビット位は必要であろう。上手くディザリングを掛ければ12ビットでも低雑音化が可能かも知れないが、其れよりもD/Aコンヴァーター出力側のラダー抵抗自身の誤差による雑音の方が遥かに大きい問題であろう。何れにしてもゲインをコントロールすると言う事自身が振幅を変化させる、つまり振幅変調を掛けるのと同じ事で、この時に如何に忠実に直線的にゲインを変化させられるか、奇数次歪を出さない様にするか、回路設計技巧が要求される。

  この時定数が歪にどの様な影響を与えるか実験をしたので紹介しておこう。コリンズの受信機HF8050をまな板の上に乗せて見たが、測定用のプログラムが未だ仮のもので申し訳ないが、それよりもHF8050のハムの酷さには絶句してしまう。
  図60と図61は50HZ差の2トーンを受信したもので、比較的歪の少ない600オームのライン出力を測定した。図を見ても判る様にAGCの時定数を早くしても遅くしても全くと言って良いほどAGCラインからの変調を受けることはない。容易に判る事だがAGC電圧は信号強度が大きいほど高くなるが、この時LPFの時定数が一定ならばAGCラインのリップル電圧も大きくなる、言い直せばリップルの含有率は一定で有り、従ってこのリップルで変調を受ける比率が大きくなると言える。特に最近の半導体化した機械では検波段の信号電圧は信号強度に殆ど関係なく一定に近く、AGCラインのリップルで受ける影響が信号強度が大きいほど酷くなるのは容易に理解できる。このHF8050でもSメーターが100dBも振る所まで入力を上げると怖ろしい歪が発生するし、同様な事がALCでも言える。話が先走ったが、最近の直流に近い所まで出せるSSBでは容易に10Hzzなどと言う超低音を出せるが、この様な信号を受信すると図62と図63に示すようにAGCリップルで変調されて可也の歪が発生するが、これでも通常のステレン機のS9+10dB程度のものである。このHF8050を弄っていて面白い事を発見した、と言うのは機械が冷えている内は歪が少なく、機械が温まるにつれて徐々に歪みが増加すると言う事で、昔々の球で良く発生したグリッドエミッションの様な状況である。未だ高周波信号を入れて低周波出力の歪み測定をするプログラムが未完なので一寸恥ずかしいが図64Aが2トーンの周波数差と歪の関係のグラフで、HF8050が充分温まった状態での測定値である。信号強度はS9+10dB位で、この程度のグラフを描かせるのにも結構1時間近く掛かり、いくら自動と言っても痺れが来る。グラフでも判るように交流電源の漏洩磁界から来るハムの多さは処置無しであったが、その後電源を外付きにして、又測定のプログラムも完成の状態にしたものが図64Bである。 



 昔、34とか35と言う球が出た時の謳い文句が「混変調が少ない、遠隔遮断制御」、そうしてその後の58, 6D6, 6K7, 6SK7は「超遠隔遮断制御」だそうで、それでは一丁これでゲインコントロールしてやるかとなり、先にも一寸触れたが1950年代最後の頃に無手勝流でやったものを懲りずに再登場させることにした。 其の頃と決定的に違う事は歪の測定が出来る事であるが、過渡的な歪の測定は残念ながら未だ日暮れて道遠しである。この過渡的な歪は取りも直さずスプラッターの最大のもので、アンプが定常状態つまり規定出力での歪ではなく、オーヴァードライヴになった時の歪で、アンプの計画、設計、調整の段階でどの様にして歪の増加を緩やかにするかが腕の見せ所になる。一般的に言って多極管をグリッド電流が流れる寸前での最大出力を出す、所謂パワーマッチの状態にすると、グリッド電流が流れ始めると急激に歪が増加する。特にドライヴァー段が多極管、6CL6, 12BY7Aの場合この傾向が極めて顕著であるが、前に紹介した某局向けに試作した85Wブースターでは三極管の6AN4を使用してもしグリッド電流が流れる所まで行っても極端にピークがつぶれる事が無いような構成にしてある。この辺りの話はドライヴァー段の所を良く読み直して戴きたい。話が脱線したが、リモートカットオフの球を使う事にして話を進める事にするが、これを先ずオーディオ段つまり昔懐かしのリミティングアンプとして色々特性を採ってみることにした。オーディオで使用と言う事になれば当然プッシュプル回路になり多極管のままでは負荷抵抗の点からとても平衡を取る為のトランスが存在しないので、勢い三極管を使用せざるを得ない。ヴァリミューの三極管としては9ピンMTの6386が唯一知られているが(ヨーロッパ球は不明)今となってはとても手に入らないので、致し方なくメタル管の6SK7を三結にして使う事にした。しかしこの球はオーディオ用として設計されていないのでマイクロフォニック雑音がひどく、昔のようにソケットをスプリングで吊る、スポンジで包む等と言うサーカス的技法は嫌なので高信頼耐震型の6137を使う事にした。基本回路は図65であるが、これを高周波用にするにはプッシュプルのコイルの設計構成にかなりの技巧を必要とするので、一先ず(今風に言うと取り敢えず)低周波で捏ね繰り回す事に決定した。この球の三結のデータは見た事も聞いた事もがないが、スクリーン最大電圧が330V、耐力が0.45Wでプレート電圧とスクリーン電圧が共に100Vの時スクリーン電流は0.4mAで未だ充分余裕があるので150Vから200Vで使ってみる事も考えたが、オーディオの場合は信号電圧も小さいので100Vを採用した。基準バイアスの1Vを固定にするか、カソードで抵抗バイアスにするかちょいと歪特性を採って見る事にする。基本的にバイアスが深くなれば固定も自動も関係ないが、AGC/ALCバイアスが0Vより深くなって行く時当然カソード抵抗による自動バイアスの場合はカソード電流の減少により自動バイアスはゼロに向かう。しかし通常このバイアス抵抗には必ず大容量のバイパスコンデンサーが入っており、この時定数が音声のような場合には過渡的な影響がどのようにあるか、その影響はコントロール電圧回路の時定数と自動バイアス回路の時定数によって決まるので、それらの面倒な事を考えるよりも固定バイアスにしてしまった方が早手廻しであろう。問題は球の特性のばらつきで、昔のようにペアー球を選ぶと言う作業が出て来るかも知れない。

 と此処までゲインをコントロールして送信機の終段をオーヴァードライヴにしなければ全て解決と言う脳天気的説明をしてきたが、オーディオとSSBのエンヴェロープ波形は似ても似つかないモノが多くあり、特に其の極端な例はオーディオの矩形波はSSBのエンヴェロープではもし帯域幅が充分広いと(3KHzに制限されているが)ピーク電圧が無限大に近くなってしまい、SSBのエンヴェロープを整流してオーディオ段に戻す様なALCを掛けようものなら其れこそ珍妙奇天烈なシャックリ音が発生することになる。でALCにしてもAGCにしてもSSBになった状態で制御する事が絶対的な条件となる。又オーディオはオーディオ段で制御しなければならない。言い直すと送信オーディオ段での制御はバラモジをオーヴァードライヴにしない為の物であり、ALCは終段をオーヴァードライヴにしない為の物と考えてよい。一方受信機ではAGCは復調器或いは検波器をオーヴァードライヴにしない為のものであって、極論すると受信機では復調後の音が割れんばかり大音響になっても知らぬ存ぜぬの一点張りと考えても差し支えない。と言う事で6137のプッシュプル制御アンプは一先ずオーディオ用のリミティングアンプの為と考えてもらいたい。